ダン まち ジャガー ノート。 【ジャガーノート】ダンまち14巻が熱い・感想

ダンまち3期はいつ放送?原作のどこまでやるのかについてもご紹介

ダン まち ジャガー ノート

youtube. ダンまち3期は「2020年秋放送開始予定」とのことなので、「2020年10月の秋アニメ枠」で放送開始されるのが濃厚です。 Sponsored Link 【ダンまち3期はどこまでやる?】 ダンまち3期放送が決定したので、次に気になるのは原作のどこまで放送されるのかです。 ここでは、ダンまち3期がどこまでやるのかをいくつかのパターンに沿って予想していきます。 4パターン全部が同じところからの開始となっていますが、ライトノベル3部の開始シーンとなることから、竜女と出会うシーンは絶対に外すことはできません。 それぞれのパターン解説については以下をご覧ください。 ただ、このパターンで1クール12〜13話構成で進行する場合、どうしても内容に限りが生じます。 なのでこのパターンの場合、よっぽど重要な部分以外は少しずつカットする方向で、1クール12〜13話の構成で内容を多めに持ってくることを予想できます。 この構成で行くと、派閥連合がダンジョン遠征に失敗したシーンで切った場合、地上に戻って帰還シーンから始めることができ、また違った印象を持つ編成ができます。 そのためジャガーノートを打倒して、ベルとリューが意識がなくなるところで止めて、次の第4期があればベルとリューがリリ達が到着してから地上に上がるところから始まるので、その後は原作を見ていない限り予想がつかない展開に持っていけます。 カットする部分を変えただけでも、ストーリー進行をガラッと変えることができるということで、こんな構成があるのではと予想してみました。 このパターン構成を考えたのは、1クール13話でやった場合、内容をカットして多めに入れるのもここまでが限界になってくるのではないかと考えました。 区切りのいい終わり方にもなりますし、内容的にも濃いものになり最後にベルが帰還したシーンを持ってくることによって、次のシーンが予想しやすい展開になりますので、原作を読んでいなくても分かりやすい構成になります。 原作ファンにとっても非常に分かりやすく、テンポよく見れる構成です。 印象的にはあまり原作とは変わらないかもしれませんが、それでも分かりやすい構成はあまり視聴者に考える負担を多く与えないので、見やすくなることも間違いないでしょう。 今回原作のどこまでやるのかを4パターン出してみましたが、その中でも第1パターンと第4パターンが濃厚だと考えます。 理由としては、第1パターンと第4パターンが次回作に移行しやすい最後となっているからです。 さらに絞ると第4パターンの方が濃厚です。 この作品では、5巻程度の進み具合でストーリーが進行しているのでという理由もありますが、地上に上がった後のシーンからの方が成長した自分のシーンなどを描きやすくなると考えました。 いかがだったでしょうか? ダンまち3期のストーリー予想をたててみると色々なことが見えてくるので、是非皆さんも自身の見解などでどこまでやるのかを予想してみてください。

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『ダンまち』シリーズの登場人物(キャラクター)まとめ

ダン まち ジャガー ノート

冒険者達の断末魔の歌が。 叫喚が響いている。 戦い、傷付き、恐怖に屈しまいとする妖精の意志が。 響き渡る戦場の音に、ぴくり、と彼の指は微動した。 意識を取り戻す。 痛みに指の一つさえも動かす事が出来ない。 しかし全身を包む冷たさに、ここが水中だと悟った。 人が生きられない、冷たい世界だと知った。 脳裏にその言葉が浮かぶ。 地上と切り離された水中。 ここで今、俺は孤独だ。 死ぬのか。 予言の詞のままに。 ここで俺は死んでしまうのか。 ああ、死んでしまうんだろう。 予言の詞は絶対だから。 反射的に瞼が開く。 緑玉蒼色の髪が見えた。 美しい相貌に、魚の鰭。 人魚のマリィがそこにいた。 胸に抱くのは、今もナイフを放さない俺の右腕。 彼女が嚙み千切るのは、己の手首。 傷口の断面に押し当てられた右腕が、彼女の『生き血』を吸う。 癒しの泡沫を噴きながら、体は喪った右腕を取り戻した。 『ハチマン・・・・ハチマンッ』 彼女の涙は止まらない。 俺の頰に手を添え、ナイフで自分の体を何度も斬り刻み、落ちていくこの体を思いきり抱きしめた。 触れ合う彼女の傷から、俺の傷へ『血』が流れ込み、溶け込んでいく。 互いの血が混ざった紅の霧に包まれながら、傷だらけだった体が修復されていく。 生きて、と怪物ほ彼女は何度も囁いた。 目を開けて、とマリィは何度も唇を耳朶に押し当てた。 心が燃え上がる。 『ッッ!!』 拳を作り、瞳を見開き、口から無数の気泡を吐く。 額が触れ合う距離で、涙に濡れる彼女の瞳と、見つめ合った。 感謝の言葉を口にする。 そして謝罪の言葉を口にした。 意志を示す。 泣き入りそうになる彼女は、子供のようにすがろうとしては躊躇うように手を止める。 行き場を失い溢れそうな想いごと、彼女を抱き締めた。 あやすようにそっと、けれど力強く言い放つ。 燃え上がる心の熱は触れあう胸を伝わり彼女へと流れ込んだ。 不安や恐怖が嘘のように消えていく。 彼ならきっと。 彼女は微笑む。 彼は一度だけ頷いて、水を蹴った。 水面へと体が突き進む。 [newpage] リューは、それを見た。 散る水飛沫を。 勢いよく破られる水流を。 水晶の陸を踏み締める脚を。 大地に立つ少年を。 意志の光を宿す、漆黒の双眼を。 『マーメイドの生き血』。 怪我を癒すと言われている神秘の怪物の血。 全快だ。 彼女の献身を浴びた傷口が回復の煙を上げる。 リューの瞳にはそれが、反撃の狼煙にも見えた。 右腕を取り戻した少年は、眦を決し、漆黒のナイフを持つ手を握り締める。 瞠目するリューの視線の先で。 水流から顔を出すマリィの側で。 ハチマンは、歌う。 「数多の書物に記載し武器よ。 我の元に形を成せ【シャドウ・ウェポン】」 漆黒のナイフを影が覆う。 そして影はナイフから刀へと形を成す。 整う臨戦態勢。 一触即発の空気の中。 呼吸すらも忘れそうになるリューの目前で、ハチマンは再度、歌い始める。 窮地を覆し、勝利を呼び寄せる彼女の金光。 「親に捨てられ、故郷を追われ、娼婦に身を落とそうとも変わらぬ美しさが彼女にはあった」 紡ぐ歌声に、高まる魔力の輝き。 本来であれば希望の体現である魔法。 しかし、この時だけは絶望を告げる歌声でしかなかった。 『ジャガーノート』に魔法は通用しない。 リューは顔を青ざめさせる。 なぜ、どうして貴方がそんな愚作を。 言葉に出来ず、絶望してしまう彼女を置き去りにして詠唱は加速する。 「それは金光の様な髪ではない。 目を奪われる程の相貌でもない。 自身の装甲に魔法は効かない。 どんな魔法であれ脅威となる事はあり得ない。 その事実の元『ジャガーノート』は感慨もなく獲物を仕留めにかかった。 突進からの『破爪』。 必殺の一撃を見舞う。 しかし、防がれる。 『!』 全てを破壊する一撃を、ハチマンは最硬の武器で受け流した。 火花を散らしながらも『破爪』はハチマンの横をすり抜けてしまう。 腕を振り抜いた状態で驚愕する『ジャガーノート』。 大きな隙を産んでしまったと理解する。 即座に回避をしなければ。 本能を全力で研ぎ澄まし、ハチマンの攻撃を対処するべく構える。 「彼女は他人に酷く優しい。 誰も恨まず、誰も憎まず、誰も突き放さない。 それは他人につけこまれ、踏みにじられる程に儚い優しさだ」 しかし、ハチマンは反撃ではなく詠唱を紡いだ。 「何故っ!?」 リューの叱咤に似た声が飛ぶ。 絶好の機会を逃してまで詠唱を優先したハチマンにリューは苦く顔を歪めてしまう。 尾を槍の如く突き、ハチマンの胸元を狙う。 「っ!」 無理矢理に体を捻り、ギリギリで回避に成功する。 しかし、胸鎧を掠めてしまい衝撃が肺へ伝わってしまう。 溢れそうになる呼吸と崩れそうになる魔力。 姿勢を崩しながらも詠唱を無理矢理に紡ぐ。 ハチマンはこの魔法以外に勝機はないと確信している。 だからこそ、絶対に止まらない。 しかし、残された猶予は少ない。 尾の一撃が空振りに終わると『ジャガーノート』は再度『破爪』を繰り出すべく腕を引いた。 崩れた姿勢では受け流しきれない。 そう悟りながらも、詠唱を断行した。 あらゆる命を刈り取るべく見舞われる、死神の鎌。 僅かに残された時間の中でハチマンに迫る防御か回避かの選択。 どちらを選んだにせよ、無事で済むわけはない。 だがそんな事はハチマンには関係がなかった。 「【ウチデノコヅチ】」 初めから魔法を放つと決めていたのだから。 浮かび上がる金光。 それは柄の存在しない槌。 『ジャガーノート』は刹那程の時の中で嘲笑う。 苦し紛れの一撃。 猫に噛みつく鼠のような、酷く憐れで滑稽な攻撃を前に勝利を確信した。 振り下ろされる槌。 自らの装甲によって跳ね返されるソレを構う必要などない。 しかし、槌は『ジャガーノート』ではなく真横へと振り下ろされる。 何をしている、と疑問のままに視線を向けると。 「ッッ!!」 兎が迫っていた。 [newpage] 声が聞こえた。 聞き慣れた声。 優しさを孕んだ声音。 強さを孕んだ声音。 決意を孕んだ声音。 信頼を孕んだ声音。 暗闇に光が差してくる。 暖かな光。 導かれるように。 手を引かれるように。 僕は走り出す。 僕だけが走り出す。 仲間の元へ、親友の元へ、相棒の元へ。 全力で、走り出す。 [newpage] 疾駆する。 地に伏せていた筈の体を弾丸へと変え、ベルは『ジャガーノート』へ攻めかかった。 【ウチデノコヅチ】春姫が有する妖術。 効果は対象の器の昇華。 攻撃ではない、最強の補助魔法。 『ジャガーノート』はもちろん、リューですらも知らないその魔法の効果。 唯一、理解出来るのはベルだけだ。 だからこそ、ハチマンは信じた。 ベルなら立ち上がる。 ベルなら理解してくれる。 そして、ベルもまたその信頼に応えた。 絶望の淵から立ち上がった。 Lv.5、到達する第一級冒険者の領域。 神にも迫る力で、ベルは疾走する。 『!!』 瞬時、ハチマンの眼前で猛然と回転する怪物の体軀。 肌で感じとる脅威を、単なる『獲物』ではなく最大の殲滅対象として断定する。 恐ろしい速度で突き進んでくる少年に対し、今度こそ粉砕せんと最強の『破爪』を繰り出した。 「ッッ!」 『!?』 超速で迫りくる一撃必殺を、ハチマンが防ぐ。 最硬の刀を合わせ、派手に火花を散らす。 圧倒的である筈の『ジャガーノート』の膂力。 それに対抗できるだけの力の源は、言うまでもなくベルの存在だ。 呼応する【義勇任侠】。 燃え上がる闘志が、一瞬の攻防で最大の隙を作り出した。 「っっ!!」 回避も許さぬ電光石火で、一挙に懐、敵の胸部目がけて逆手に持った《ヘスティア・ナイフ》を一閃させる。 「!?」 「っ!」 そしてベルとハチマンは驚愕する。 敵の胸を裂いた。 しかし『核』を打ち砕いた手応えがない。 しかし直ぐ様、転身。 絡み合う三つの眼差し。 互いに空振りに終わった一撃必殺。 よって。 ここから始まるのは、互いの命を賭した『死闘』である。 ベルとハチマンは気迫一声、真っ向から突っ込んだ。 互いに目線だけを交わす事により、意思を伝え合う。 殴り合いの超近接戦闘、その結論に至り『ジャガーノート』の懐へ強引に踏み込む。 「ああああああッッ!!」 漆黒の刃が向かうのは、敵右脚の逆関節。 神速をもって斬閃をその膝に叩き込んだ。 『ッッ!?』 がくんっ、と右足を僅かに落とす『ジャガーノート』。 姿勢の維持、及び戦闘続行には何ら支障はない。 だが豪風のごとき高速跳躍が不可能となる。 跳躍力を蓄力する逆関節の『膝』を、ベルの一撃は的確に捉えていた。 相対するモンスターは、ようやく自らの危機を悟る。 卓越した連携。 それは技術ではなく信頼の上で成せる業だ。 僕が攻める時、ハチマンなら。 俺が守る時、ベルなら。 お互いにどう動くのか、どう動いて欲しいのか。 それを理解して、伝え合う事で本来の力を何倍にも底上げしている。 『ジャガーノート』は単にLv.4とLv.5の冒険者を相手にしているわけではない。 二人の力が合わさり、本能が警鐘を鳴らすほどの脅威と化している。 水晶の床を爆砕し、互いの姿を霞ませ、衝突する。 少年達の思い描いた通り、凄烈な超近接戦闘が火蓋を切った。 「・・・・」 折れた右足を崩しながら何とか上体を起こすリューは、二人の『冒険』にただ目を奪われていた。 流れるような連携、分担された攻防の役割。 まるで盾と矛を構えた一人の巨人が怪物と対峙しているかの様だった。 リューが一番『ジャガーノート』の恐ろしさをわかっている。 その脅威を骨の髄まで染み込ませている。 しかし、今だけはその恐怖を忘れていた。 目の前の輝きに、ただただ見惚れていた。 希望が輝いていた。 「スゴイ・・・・」 マリィが高ぶる声を漏らした。 絶望に抗う姿に心が弾む。 交わした約束の通り、ハチマンは勝利を掴もうとしている。 ぎゅ、と握った拳。 マリィは飛ばしたい声援を堪えて、眼差しだけで二人を応援する。 『・・・・!!』 『ジャガーノート』は苛立ちという感情に支配されていた。 必殺である筈の『破爪』が何度も滑らせ、受け流される。 ふざけるなと言わんばかりに怪物は最強の『破爪』を何度も振り下ろした。 だが砕けない。 破れない。 幾度となく火花を散らしながらも、魔法が造り上げた最硬の武器は折れることも欠けることもあり得ない。 『ジャガーノート』の必殺はもはや必殺足り得ていない。 だからこそ、ベルの中で恐怖の感情は消えていた。 燃え上がる闘志のままに、支配される全能感と共に神速を持って攻め立てる。 「シッッ!!」 《ヘスティア・ナイフ》がベルの闘志に呼応するかのように輝きを増す。 紫紺の軌跡が幾度となく宙に煌めき、その度に『ジャガーノート』の装甲を傷付けていく。 「「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」 二人が雄叫びを重ねる。 瞳は勝利だけを見据え、絶望に抗うべく得物を振るう。 心を奮い立たせるのは常にお互いの存在。 ベルがいるから。 ハチマンがいるから。 だから、僕は。 だから、俺は。 「美しい・・・・」 リューは再び、その言葉を溢していた。 迷宮に響く雄叫び。 二人の少年が心を燃やしながら、絶望に抗う。 その姿はまるで英雄譚を切り出した様で、見惚れてしまう程に美しかった。 童心に帰るように、心が弾む。 二人の熱に妖精は心まで溶かされていた。 『・・・・!?』 破壊者は、産まれてから初めて抱くその感情に戸惑った。 破壊しても蘇り、切り刻んでも突き進み、叩き潰そうとしても、揺れる影と逆巻く炎は捕らえられない。 削られていく己の装甲。 抱く筈のない感情の名は恐怖だった。 『!!』 気圧されるように『ジャガーノート』が初めて後退した。 怒涛の攻めから逃れようと、後ろへ跳ぶ。 言葉を交わす間さえなく、ベルは左手を構え。 ハチマンは射線上から身体を反らす。 「【ファイアボルト】!!」 十七連射。 精神力を十七の弾丸に変え、ありったけの『魔力』を装塡した渾身の超速射砲。 壮絶な瞬間火力が一驚するモンスターの眼前に展開される。 『!』 しかし、当然のように体を発光させる『ジャガーノート』。 『魔力反射』。 無敵の盾をかざし、少年の『魔法』をあえなくはね返す。 「!?」 妖精は目を疑い、人魚は悲鳴を上げ、怪物でさえ驚倒した。 迫りくる十七連発の火砲。 真っ赤に染まる光景が瞬く間にベルの体を呑み込む。 自らの炎に焼かれ、脇腹を貫かれながら、それでも勝利の雄叫びを上げ、前へ。 たった一発。 たった一条の、狙い澄ましていた炎雷を漆黒のナイフで受け止め、炸裂させた。 そして、蓄力する。 『ジャガーノート』は見た。 ナイフに炸裂した筈の炎雷が拡散することなく、白光に押さえ込まれ集束する光景を。 『二重蓄力』。 跳ね返されると見越した上での『必殺』への布石。 反射された膨大な火炎弾は隠れ蓑。 荒ぶる炎雷の弾幕が敵の視界から自分の姿を消した瞬間を掠め取り、ベルは渾身の肉薄を仕掛ける。 刹那の狭間に立ちつくした『ジャガーノート』は全て理解した。 怪物の体も致命傷になりうる一斉射撃をもって、『魔力反射』の発動を誘発させられた。 装甲殻の使用のため一瞬に満たない硬直時間を狙っての、突貫。 力を総動員すれば、迎撃も、防御も、回避も可能である。 筈だった。 「ッッ!!」 現れる影。 ベルが放った炎雷を打ち破り、神速で迫るベルと並ぶ程の速さで影が躍り出る。 それは緊急回避の応用による超加速。 一息にも満たない時の間に、盾と矛が揃う。 『ジャガーノート』に残された選択は『回避』以外に存在しなかった。 残された左脚の逆関節を軋ませ、十全ではないながらも十分な跳躍を行う。 厄災の怪物は、その冒険者との『駆け引き』に負けた。 判断は間違いではない。 反応も十分に早かったと言える。 しかし、読み合いにおいて負けてしまった。 そして、一投。 予測された回避を前にハチマンは中距離の『間接攻撃』を見舞う。 鞭のようにうねり空間を走った漆黒の帯は、モンスターの長い尾を捕まえた。 『!?』 がくんっと揺れる振動、伸び切った襟巻、水晶の地面に踏ん張る少年の両脚。 空中で不自然に停止する『ジャガーノート』。 敵が帯びていた途方もない慣性の反動が、襟巻を摑むハチマンの左手を襲う。 ミチッミチッ、と筋肉が千切れる音が鳴る。 メキッ、と腕の骨が外れる旋律が走る。 見開かれた双眼が充血する。 それでもハチマンは渾身の力をもって、左腕を引き寄せた。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」 尾と襟巻きが繫がった『ジャガーノート』が引き戻される。 少年達のもとに降下する怪物は巨軀を揺さぶり、先程から芽生えているその『感情』を理解してしまった。 これは獲物が抱く『恐怖』であると。 全て壊す『破爪』。 砕けぬものなどない絶対の武器。 敵の右手が宿す炎熱の刃に向かって、己が武器を構える。 あれは『魔法』か、斬撃か、と。 否である。 それは『魔法』でもなく斬撃でもなく、反射はもとより防御も許さない極大の『必殺』。 あらゆるものを灰燼に帰す、『聖火の一撃』。 九秒分の蓄力。 『破爪』とともに迫りくる『ジャガーノート』に、ベルはその一撃を解放した。 「聖火の英斬!!」 爆砕。 紫紺の輝きが光炎に塗り潰された。 砕ける『破爪』。 飛び散る黒と紫の欠片。 『ジャガーノート』の右腕が消滅する。 『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』 絶哭する。 聖火の轟閃によってその右腕は『破爪』ごと跡形もなく消し飛び、威力と衝撃は肩を通じて右半身に及んだ。 攻撃と敏捷に特化したが故の低い『耐久性』。 脇腹、背面に損傷と亀裂が走り抜け、『殻』がばらばらと剝落する。 化石を彷彿させる胴体も破壊される『ジャガーノート』は、爆砕された反動で水晶の大地に突っ込んだ。 右腕ごと爆砕された尾が襟巻きという鎖から解放され、その巨体は地面を擦過しては転がり、広間の中央でようやく止まる。 破壊者は初めて痛哭を上げた。 (蓄力が足りなかった・・・・!) 絶叫を上げて悶え苦しむ怪物を見て、ベルは目を眇めた。 刹那の攻防のため仕方なかったとはいえ、必殺には至らなかった。 だが、手応えはあった。 最凶最悪の怪物に銀の弾丸を打ち込んでやった手応えが。 『ジャガーノート』を強引に引き留めた事により左腕を負傷したハチマン。 速攻魔法の大展開と『二重蓄力』によって酷使された精神力により疲弊したベル。 繰り出した必殺を後に、反動が大きい。 しかし、ハチマンは左腕以外に問題はない。 ベルもまた【ウチデノコヅチ】の補助により疲弊も思っていた程ではない。 まだやれる。 二人の闘志はまだ燃えていた。 ハチマンとベルも遅れて気付いたが、遅かった。 隻腕の影が水晶の柱から身を踊り出し、『ジャガーノート』に覆い被さった。 「ははははははははははッ!?やったぜぇええええええええ!」 ジュラである。 身を隠していた調教師の男は、待ちわびていた機が到来した瞬間、飛び出したのだ。 恐竜の化石を彷彿させる『ジャガーノート』の細い首には、妖しく輝く紅の首輪が嵌められていた。 「期待していなかったが、本当にこの化物の膝をつかせちまうとなぁ!」 「ジュラ・・・・!」 「だがこれで、こいつは俺のもんだぁ!」 歓喜に打ち震える猫人の男は、啞然とするベルハチマン、そしてリューに笑みを見せる。 それは男がずっと待っていた『念願の時』だった。 口もとに嘲笑を滲ませるジュラは、紅の鞭を取り出し、勢いよく地面に叩きつける。 「さぁ立て、俺だけの化物!そのガキ共と、リオンを殺せぇえええええええええ!!」 鞭に共鳴する首輪が強烈な光を放つ。 暴れるかのごとく輝きをまき散らす魔道具に、半身を失った『ジャガーノート』は何度も体を揺すっていたかと思うと・・・・ゆっくりと立ち上がった。 その眼窩の奥、真紅の眼差しは少年とエルフにそそがれる。 体の損害を無視して殲滅の意志を宿す怪物の影に、ベルは焦燥を隠さず、顔を歪めた。 怪物は煩わしそうに、残っている尾を薙いだ。 飛び散る肉片。 二つに分かれる男の体。 吹き飛んだジュラの上半身は、何が起こったか最後まで理解できないまま、広間を流れる水流に落下した。 下半身が思い出したように地面に倒れ、上半身が沈んだ水流は紅の気泡を浮かばせる。 ハチマンも、ベルも、リューも、言葉を失った。 あっけなさ過ぎる、『悪』の最期だった。 男の遺志、いや怨念を一身に受け止めるように発光を重ね、『ジャガーノート』の体軀を突き動かす。 破損を重ねた足爪が一歩を踏み出し、ハチマン達に近付いた。 もう一度戦闘に臨もうと、悲鳴を上げる全身に鞭を入れる。 その時だった。 正確には、積まれていた瓦礫を払いのけるような。 後方にいるのは、まだ立ち上がれずにいるリュー。 そして更にその奥、崩れた水晶の中から這い出る、大蛇のモンスター。 首輪の輝きを纏う超大型級のモンスターは明らかに調教の影響を受けていた。 男が遺した最期の命令を一言一句違わず聞き入れ、血まみれの複眼をぎらつかせる。 調教師の最後の指示。 それは『少年達と妖精を殺せ』。 瀕死の大蛇は咆哮を上げ、水晶の破片を巻き上げながら襲いかかった。 すなわち、リューの背後から。 「リューさんっ!?」 異変に気付いて目を見開くも既に遅きに失したリュー。 その背後から巨大な口腔を覗かせ突き進む『ラムトン』。 それに向かって、走り出すベル。 「っ!?」 しかし、ガクンっと膝が崩れてしまう。 唐突に失われた【ウチデノコヅチ】の補助。 なんで、と疑問を抱くよりも早く全力で走り出すハチマンの姿を視界に捉える。 緊急回避の応用でリューとの距離を埋め、ハチマンは彼女の体を抱き締める。 次の瞬間、二人の冒険者は大蛇の口に呑み込まれた。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』 雄叫びを上げ、そのまま鋭く尖った頭部を地面に突っ込ませる『ラムトン』。 回転する大長軀は岩盤を砕き、抉って、地中へ穿孔した。 罅の入った体から『殻』の破片を飛ばして咆哮し、『ラムトン』が開けた大穴へと飛び込む。 広間で繰り広げられていた壮絶な戦闘は、それで幕を閉じた。 「ハチマン、リューさん・・・・うあああああああああああああああっ!!」 「ハチマン・・・・ハチマァァァァンッ!?」 静寂に取り残されるように、一人と一匹。 兎と人魚の悲痛な声が響いた。 [newpage] 鳴り響く、岩盤を打ち砕く音。 猛烈な空気を裂く音の後、地面から激突音が奏でられた。 その衝撃に階層が震動する。 舞い上がる煙の奥、できあがった窪地の中で蠢くのは青白い長軀。 大蛇のモンスター『ワーム・ウェール』である。 複眼を潰し、血を流しながら、この世で最も度し難い苦痛を与えられたかのようにもがき苦しむ。 大きな顎から紅の色が交ざった吐瀉物を吐き出しながら、その長大な体軀をのたうち回らせた。 それはまるで、『絶対に腹を壊す非常に厄介な異物』を食べてしまった子供にも似ていて。 次の瞬間、ドンッ!とモンスターの腹を内側から槍が貫く。 漆黒の槍は大剣へ替わり、『凶兆』の腹を切り裂いていく。 やがてモンスターは力つき、轟然と大地に横たわった。 そして、引き裂かれた腹からはどろり、と体内にしまっていた臓物が紅の水と一緒に溢れ出す。 直後、内側から現れた手がその傷口を摑み、左右へ思い切り、引き裂く。 「ぐあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・!?」 黒髪の少年が現れる。 両目をきつく瞑り、全身から湯気を上げ、ハチマンは絶叫を上げた。 脱出したモンスターの体内から前のめりに数歩進んだかと思うと、どしゃっ、と受け身も取らず、血の泉へ倒れ込む。 「うああああああああああああぁぁぁぁっ・・・・!?」 ハチマンの全身は溶けていた。 露出した肌を始め、冒険者装備も一部が溶解し、髪も煙を上げている。 無事なのは左手に巻き付けていた襟巻きと右手に握り絞めていた【魔刃・極黒】のみ。 呑み込まれたモンスターの胃袋の中で、強烈な毒の酸が少年を焼いたのだ。 ようやく体外に脱出し、冷たい外気に触れても激痛が全身を埋めつくす。 酸が交じったモンスターの血溜りにうつ伏せになって沈み、再び肌を焼かれて煙が上がる。 だがすぐに、ハチマンは手をついて体を引き剝がし、ふらつきながら立ち上がった。 「リューさっ、あぁ、リューさんっ!!」 癒着してきつく閉じられていた片方の瞼をこじ開け、視界をぼやけさせながら、再びモンスターの体内へ赴く。 宝物を無くしてしまった子供の様に、顔を歪ませながは体内をかきわけることしばらく、その腕で一人のエルフを抱きしめ、今度こそ怪物の胃袋を後にした。 「うあああああああっ・・・・!」 常人ならば仲良く溶けて、大蛇の腹の中で混ざり合っていただろう。 だが二人は常人を遥かに超越した上級冒険者。 『器』を三度昇華させた彼等は強力な胃酸にも耐え抜いた。 無様な中腰の姿勢でリューをずるずると引きずり、モンスターの血の泉を避けた後、突っ込むように地面へ倒れる。 リューはぐったりと力を失っていた。 呑み込まれた後もハチマンが胸に抱き締め守っていたとはいえ、やはりロングケープや戦闘衣は溶け出していた。 瑞々しいエルフの肌も醜い火傷にぽつぽつと犯されている。 その瞼は、永遠の眠りについたかのように閉じられたまま。 「リューさんっ、リューさん!!目を開けてくれ!!頼むからっ!!」 震える手と、溶けた指の皮でリューの肩を摑むハチマンは、祈るように繰り返し叫んだ。 彼女の命を繫ぎ止めるように、何度も。 少年の願いは届いたのか、ぴくりと、瞼が閉じられた睫毛が震える。 「リューさんっ・・・・!」 ハチマンの顔に歓喜が宿った直後。 彼の希望を打ち砕くように、怪物の遠吠えが鳴り響いた。 そこは茫洋とした大広間。 あまりにも広い。 巨大過ぎる。 薄闇に支配される周囲を震える眼差しで見回したハチマンは、付近にモンスターの影がないことに安堵しようとした。 しようとして、できなかった。 暗闇に包まれた体内で散々揺さぶられ、衝撃に翻弄されていたハチマンには、側で死体となって横たわっているこのモンスターがどこまで穿孔したのか把握できる筈もなかった。 恐らくは、27階層より下部の階層。 力を失っているリューの肩に指を食い込ませ、その体を守るように抱き締めながら、恐怖と戦いながら現状把握に努める。 地面の組成は土石系。 うっすらと視界の奥に見える壁面も同様。 頭上に広がる空間は果てしなく高く、Lv.4の視力をもってしても天井を視認できない。 茫漠とした闇に塞がれてしまっている。 唯一の光源は、壁に等間隔に灯されている燐光のみ。 首を犯す凍てついた風が。 『ようやく気付いたか?』と。 肩にのしかかる暗澹とした闇が、耳もとで嗤い声を上げ始める。 心臓の音がうるさい。 骨を突き破って飛び出してきそう。 乾いた笛のように鳴り続けている音が、乱れた自分の呼吸だと気付くのに数秒を要した。 まさか、まさか、まさか。 本能が悲鳴を上げている。 理性が事実を否定したがっている。 しかし、ヒューマンの彼女と共に閲覧した資料の記憶が残酷なまでに『とある階層』の情報と現状を合致させる。 あまりにも巨大な迷宮構造。 悲愴を覚えるほどの度合の違い。 上層域、中層域、果ては下層域とも異なるその規模。 ハチマンは絶望に染まりながら答えに辿り着く。 震える唇が、呟きを落とした。 「『深層』・・・・」.

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ジャガーノート(イラスト:かれい)

ダン まち ジャガー ノート

冒険者達の断末魔の歌が。 叫喚が響いている。 戦い、傷付き、恐怖に屈しまいとする妖精の意志が。 響き渡る戦場の音に、ぴくり、と彼の指は微動した。 意識を取り戻す。 痛みに指の一つさえも動かす事が出来ない。 しかし全身を包む冷たさに、ここが水中だと悟った。 人が生きられない、冷たい世界だと知った。 脳裏にその言葉が浮かぶ。 地上と切り離された水中。 ここで今、俺は孤独だ。 死ぬのか。 予言の詞のままに。 ここで俺は死んでしまうのか。 ああ、死んでしまうんだろう。 予言の詞は絶対だから。 反射的に瞼が開く。 緑玉蒼色の髪が見えた。 美しい相貌に、魚の鰭。 人魚のマリィがそこにいた。 胸に抱くのは、今もナイフを放さない俺の右腕。 彼女が嚙み千切るのは、己の手首。 傷口の断面に押し当てられた右腕が、彼女の『生き血』を吸う。 癒しの泡沫を噴きながら、体は喪った右腕を取り戻した。 『ハチマン・・・・ハチマンッ』 彼女の涙は止まらない。 俺の頰に手を添え、ナイフで自分の体を何度も斬り刻み、落ちていくこの体を思いきり抱きしめた。 触れ合う彼女の傷から、俺の傷へ『血』が流れ込み、溶け込んでいく。 互いの血が混ざった紅の霧に包まれながら、傷だらけだった体が修復されていく。 生きて、と怪物ほ彼女は何度も囁いた。 目を開けて、とマリィは何度も唇を耳朶に押し当てた。 心が燃え上がる。 『ッッ!!』 拳を作り、瞳を見開き、口から無数の気泡を吐く。 額が触れ合う距離で、涙に濡れる彼女の瞳と、見つめ合った。 感謝の言葉を口にする。 そして謝罪の言葉を口にした。 意志を示す。 泣き入りそうになる彼女は、子供のようにすがろうとしては躊躇うように手を止める。 行き場を失い溢れそうな想いごと、彼女を抱き締めた。 あやすようにそっと、けれど力強く言い放つ。 燃え上がる心の熱は触れあう胸を伝わり彼女へと流れ込んだ。 不安や恐怖が嘘のように消えていく。 彼ならきっと。 彼女は微笑む。 彼は一度だけ頷いて、水を蹴った。 水面へと体が突き進む。 [newpage] リューは、それを見た。 散る水飛沫を。 勢いよく破られる水流を。 水晶の陸を踏み締める脚を。 大地に立つ少年を。 意志の光を宿す、漆黒の双眼を。 『マーメイドの生き血』。 怪我を癒すと言われている神秘の怪物の血。 全快だ。 彼女の献身を浴びた傷口が回復の煙を上げる。 リューの瞳にはそれが、反撃の狼煙にも見えた。 右腕を取り戻した少年は、眦を決し、漆黒のナイフを持つ手を握り締める。 瞠目するリューの視線の先で。 水流から顔を出すマリィの側で。 ハチマンは、歌う。 「数多の書物に記載し武器よ。 我の元に形を成せ【シャドウ・ウェポン】」 漆黒のナイフを影が覆う。 そして影はナイフから刀へと形を成す。 整う臨戦態勢。 一触即発の空気の中。 呼吸すらも忘れそうになるリューの目前で、ハチマンは再度、歌い始める。 窮地を覆し、勝利を呼び寄せる彼女の金光。 「親に捨てられ、故郷を追われ、娼婦に身を落とそうとも変わらぬ美しさが彼女にはあった」 紡ぐ歌声に、高まる魔力の輝き。 本来であれば希望の体現である魔法。 しかし、この時だけは絶望を告げる歌声でしかなかった。 『ジャガーノート』に魔法は通用しない。 リューは顔を青ざめさせる。 なぜ、どうして貴方がそんな愚作を。 言葉に出来ず、絶望してしまう彼女を置き去りにして詠唱は加速する。 「それは金光の様な髪ではない。 目を奪われる程の相貌でもない。 自身の装甲に魔法は効かない。 どんな魔法であれ脅威となる事はあり得ない。 その事実の元『ジャガーノート』は感慨もなく獲物を仕留めにかかった。 突進からの『破爪』。 必殺の一撃を見舞う。 しかし、防がれる。 『!』 全てを破壊する一撃を、ハチマンは最硬の武器で受け流した。 火花を散らしながらも『破爪』はハチマンの横をすり抜けてしまう。 腕を振り抜いた状態で驚愕する『ジャガーノート』。 大きな隙を産んでしまったと理解する。 即座に回避をしなければ。 本能を全力で研ぎ澄まし、ハチマンの攻撃を対処するべく構える。 「彼女は他人に酷く優しい。 誰も恨まず、誰も憎まず、誰も突き放さない。 それは他人につけこまれ、踏みにじられる程に儚い優しさだ」 しかし、ハチマンは反撃ではなく詠唱を紡いだ。 「何故っ!?」 リューの叱咤に似た声が飛ぶ。 絶好の機会を逃してまで詠唱を優先したハチマンにリューは苦く顔を歪めてしまう。 尾を槍の如く突き、ハチマンの胸元を狙う。 「っ!」 無理矢理に体を捻り、ギリギリで回避に成功する。 しかし、胸鎧を掠めてしまい衝撃が肺へ伝わってしまう。 溢れそうになる呼吸と崩れそうになる魔力。 姿勢を崩しながらも詠唱を無理矢理に紡ぐ。 ハチマンはこの魔法以外に勝機はないと確信している。 だからこそ、絶対に止まらない。 しかし、残された猶予は少ない。 尾の一撃が空振りに終わると『ジャガーノート』は再度『破爪』を繰り出すべく腕を引いた。 崩れた姿勢では受け流しきれない。 そう悟りながらも、詠唱を断行した。 あらゆる命を刈り取るべく見舞われる、死神の鎌。 僅かに残された時間の中でハチマンに迫る防御か回避かの選択。 どちらを選んだにせよ、無事で済むわけはない。 だがそんな事はハチマンには関係がなかった。 「【ウチデノコヅチ】」 初めから魔法を放つと決めていたのだから。 浮かび上がる金光。 それは柄の存在しない槌。 『ジャガーノート』は刹那程の時の中で嘲笑う。 苦し紛れの一撃。 猫に噛みつく鼠のような、酷く憐れで滑稽な攻撃を前に勝利を確信した。 振り下ろされる槌。 自らの装甲によって跳ね返されるソレを構う必要などない。 しかし、槌は『ジャガーノート』ではなく真横へと振り下ろされる。 何をしている、と疑問のままに視線を向けると。 「ッッ!!」 兎が迫っていた。 [newpage] 声が聞こえた。 聞き慣れた声。 優しさを孕んだ声音。 強さを孕んだ声音。 決意を孕んだ声音。 信頼を孕んだ声音。 暗闇に光が差してくる。 暖かな光。 導かれるように。 手を引かれるように。 僕は走り出す。 僕だけが走り出す。 仲間の元へ、親友の元へ、相棒の元へ。 全力で、走り出す。 [newpage] 疾駆する。 地に伏せていた筈の体を弾丸へと変え、ベルは『ジャガーノート』へ攻めかかった。 【ウチデノコヅチ】春姫が有する妖術。 効果は対象の器の昇華。 攻撃ではない、最強の補助魔法。 『ジャガーノート』はもちろん、リューですらも知らないその魔法の効果。 唯一、理解出来るのはベルだけだ。 だからこそ、ハチマンは信じた。 ベルなら立ち上がる。 ベルなら理解してくれる。 そして、ベルもまたその信頼に応えた。 絶望の淵から立ち上がった。 Lv.5、到達する第一級冒険者の領域。 神にも迫る力で、ベルは疾走する。 『!!』 瞬時、ハチマンの眼前で猛然と回転する怪物の体軀。 肌で感じとる脅威を、単なる『獲物』ではなく最大の殲滅対象として断定する。 恐ろしい速度で突き進んでくる少年に対し、今度こそ粉砕せんと最強の『破爪』を繰り出した。 「ッッ!」 『!?』 超速で迫りくる一撃必殺を、ハチマンが防ぐ。 最硬の刀を合わせ、派手に火花を散らす。 圧倒的である筈の『ジャガーノート』の膂力。 それに対抗できるだけの力の源は、言うまでもなくベルの存在だ。 呼応する【義勇任侠】。 燃え上がる闘志が、一瞬の攻防で最大の隙を作り出した。 「っっ!!」 回避も許さぬ電光石火で、一挙に懐、敵の胸部目がけて逆手に持った《ヘスティア・ナイフ》を一閃させる。 「!?」 「っ!」 そしてベルとハチマンは驚愕する。 敵の胸を裂いた。 しかし『核』を打ち砕いた手応えがない。 しかし直ぐ様、転身。 絡み合う三つの眼差し。 互いに空振りに終わった一撃必殺。 よって。 ここから始まるのは、互いの命を賭した『死闘』である。 ベルとハチマンは気迫一声、真っ向から突っ込んだ。 互いに目線だけを交わす事により、意思を伝え合う。 殴り合いの超近接戦闘、その結論に至り『ジャガーノート』の懐へ強引に踏み込む。 「ああああああッッ!!」 漆黒の刃が向かうのは、敵右脚の逆関節。 神速をもって斬閃をその膝に叩き込んだ。 『ッッ!?』 がくんっ、と右足を僅かに落とす『ジャガーノート』。 姿勢の維持、及び戦闘続行には何ら支障はない。 だが豪風のごとき高速跳躍が不可能となる。 跳躍力を蓄力する逆関節の『膝』を、ベルの一撃は的確に捉えていた。 相対するモンスターは、ようやく自らの危機を悟る。 卓越した連携。 それは技術ではなく信頼の上で成せる業だ。 僕が攻める時、ハチマンなら。 俺が守る時、ベルなら。 お互いにどう動くのか、どう動いて欲しいのか。 それを理解して、伝え合う事で本来の力を何倍にも底上げしている。 『ジャガーノート』は単にLv.4とLv.5の冒険者を相手にしているわけではない。 二人の力が合わさり、本能が警鐘を鳴らすほどの脅威と化している。 水晶の床を爆砕し、互いの姿を霞ませ、衝突する。 少年達の思い描いた通り、凄烈な超近接戦闘が火蓋を切った。 「・・・・」 折れた右足を崩しながら何とか上体を起こすリューは、二人の『冒険』にただ目を奪われていた。 流れるような連携、分担された攻防の役割。 まるで盾と矛を構えた一人の巨人が怪物と対峙しているかの様だった。 リューが一番『ジャガーノート』の恐ろしさをわかっている。 その脅威を骨の髄まで染み込ませている。 しかし、今だけはその恐怖を忘れていた。 目の前の輝きに、ただただ見惚れていた。 希望が輝いていた。 「スゴイ・・・・」 マリィが高ぶる声を漏らした。 絶望に抗う姿に心が弾む。 交わした約束の通り、ハチマンは勝利を掴もうとしている。 ぎゅ、と握った拳。 マリィは飛ばしたい声援を堪えて、眼差しだけで二人を応援する。 『・・・・!!』 『ジャガーノート』は苛立ちという感情に支配されていた。 必殺である筈の『破爪』が何度も滑らせ、受け流される。 ふざけるなと言わんばかりに怪物は最強の『破爪』を何度も振り下ろした。 だが砕けない。 破れない。 幾度となく火花を散らしながらも、魔法が造り上げた最硬の武器は折れることも欠けることもあり得ない。 『ジャガーノート』の必殺はもはや必殺足り得ていない。 だからこそ、ベルの中で恐怖の感情は消えていた。 燃え上がる闘志のままに、支配される全能感と共に神速を持って攻め立てる。 「シッッ!!」 《ヘスティア・ナイフ》がベルの闘志に呼応するかのように輝きを増す。 紫紺の軌跡が幾度となく宙に煌めき、その度に『ジャガーノート』の装甲を傷付けていく。 「「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」 二人が雄叫びを重ねる。 瞳は勝利だけを見据え、絶望に抗うべく得物を振るう。 心を奮い立たせるのは常にお互いの存在。 ベルがいるから。 ハチマンがいるから。 だから、僕は。 だから、俺は。 「美しい・・・・」 リューは再び、その言葉を溢していた。 迷宮に響く雄叫び。 二人の少年が心を燃やしながら、絶望に抗う。 その姿はまるで英雄譚を切り出した様で、見惚れてしまう程に美しかった。 童心に帰るように、心が弾む。 二人の熱に妖精は心まで溶かされていた。 『・・・・!?』 破壊者は、産まれてから初めて抱くその感情に戸惑った。 破壊しても蘇り、切り刻んでも突き進み、叩き潰そうとしても、揺れる影と逆巻く炎は捕らえられない。 削られていく己の装甲。 抱く筈のない感情の名は恐怖だった。 『!!』 気圧されるように『ジャガーノート』が初めて後退した。 怒涛の攻めから逃れようと、後ろへ跳ぶ。 言葉を交わす間さえなく、ベルは左手を構え。 ハチマンは射線上から身体を反らす。 「【ファイアボルト】!!」 十七連射。 精神力を十七の弾丸に変え、ありったけの『魔力』を装塡した渾身の超速射砲。 壮絶な瞬間火力が一驚するモンスターの眼前に展開される。 『!』 しかし、当然のように体を発光させる『ジャガーノート』。 『魔力反射』。 無敵の盾をかざし、少年の『魔法』をあえなくはね返す。 「!?」 妖精は目を疑い、人魚は悲鳴を上げ、怪物でさえ驚倒した。 迫りくる十七連発の火砲。 真っ赤に染まる光景が瞬く間にベルの体を呑み込む。 自らの炎に焼かれ、脇腹を貫かれながら、それでも勝利の雄叫びを上げ、前へ。 たった一発。 たった一条の、狙い澄ましていた炎雷を漆黒のナイフで受け止め、炸裂させた。 そして、蓄力する。 『ジャガーノート』は見た。 ナイフに炸裂した筈の炎雷が拡散することなく、白光に押さえ込まれ集束する光景を。 『二重蓄力』。 跳ね返されると見越した上での『必殺』への布石。 反射された膨大な火炎弾は隠れ蓑。 荒ぶる炎雷の弾幕が敵の視界から自分の姿を消した瞬間を掠め取り、ベルは渾身の肉薄を仕掛ける。 刹那の狭間に立ちつくした『ジャガーノート』は全て理解した。 怪物の体も致命傷になりうる一斉射撃をもって、『魔力反射』の発動を誘発させられた。 装甲殻の使用のため一瞬に満たない硬直時間を狙っての、突貫。 力を総動員すれば、迎撃も、防御も、回避も可能である。 筈だった。 「ッッ!!」 現れる影。 ベルが放った炎雷を打ち破り、神速で迫るベルと並ぶ程の速さで影が躍り出る。 それは緊急回避の応用による超加速。 一息にも満たない時の間に、盾と矛が揃う。 『ジャガーノート』に残された選択は『回避』以外に存在しなかった。 残された左脚の逆関節を軋ませ、十全ではないながらも十分な跳躍を行う。 厄災の怪物は、その冒険者との『駆け引き』に負けた。 判断は間違いではない。 反応も十分に早かったと言える。 しかし、読み合いにおいて負けてしまった。 そして、一投。 予測された回避を前にハチマンは中距離の『間接攻撃』を見舞う。 鞭のようにうねり空間を走った漆黒の帯は、モンスターの長い尾を捕まえた。 『!?』 がくんっと揺れる振動、伸び切った襟巻、水晶の地面に踏ん張る少年の両脚。 空中で不自然に停止する『ジャガーノート』。 敵が帯びていた途方もない慣性の反動が、襟巻を摑むハチマンの左手を襲う。 ミチッミチッ、と筋肉が千切れる音が鳴る。 メキッ、と腕の骨が外れる旋律が走る。 見開かれた双眼が充血する。 それでもハチマンは渾身の力をもって、左腕を引き寄せた。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」 尾と襟巻きが繫がった『ジャガーノート』が引き戻される。 少年達のもとに降下する怪物は巨軀を揺さぶり、先程から芽生えているその『感情』を理解してしまった。 これは獲物が抱く『恐怖』であると。 全て壊す『破爪』。 砕けぬものなどない絶対の武器。 敵の右手が宿す炎熱の刃に向かって、己が武器を構える。 あれは『魔法』か、斬撃か、と。 否である。 それは『魔法』でもなく斬撃でもなく、反射はもとより防御も許さない極大の『必殺』。 あらゆるものを灰燼に帰す、『聖火の一撃』。 九秒分の蓄力。 『破爪』とともに迫りくる『ジャガーノート』に、ベルはその一撃を解放した。 「聖火の英斬!!」 爆砕。 紫紺の輝きが光炎に塗り潰された。 砕ける『破爪』。 飛び散る黒と紫の欠片。 『ジャガーノート』の右腕が消滅する。 『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』 絶哭する。 聖火の轟閃によってその右腕は『破爪』ごと跡形もなく消し飛び、威力と衝撃は肩を通じて右半身に及んだ。 攻撃と敏捷に特化したが故の低い『耐久性』。 脇腹、背面に損傷と亀裂が走り抜け、『殻』がばらばらと剝落する。 化石を彷彿させる胴体も破壊される『ジャガーノート』は、爆砕された反動で水晶の大地に突っ込んだ。 右腕ごと爆砕された尾が襟巻きという鎖から解放され、その巨体は地面を擦過しては転がり、広間の中央でようやく止まる。 破壊者は初めて痛哭を上げた。 (蓄力が足りなかった・・・・!) 絶叫を上げて悶え苦しむ怪物を見て、ベルは目を眇めた。 刹那の攻防のため仕方なかったとはいえ、必殺には至らなかった。 だが、手応えはあった。 最凶最悪の怪物に銀の弾丸を打ち込んでやった手応えが。 『ジャガーノート』を強引に引き留めた事により左腕を負傷したハチマン。 速攻魔法の大展開と『二重蓄力』によって酷使された精神力により疲弊したベル。 繰り出した必殺を後に、反動が大きい。 しかし、ハチマンは左腕以外に問題はない。 ベルもまた【ウチデノコヅチ】の補助により疲弊も思っていた程ではない。 まだやれる。 二人の闘志はまだ燃えていた。 ハチマンとベルも遅れて気付いたが、遅かった。 隻腕の影が水晶の柱から身を踊り出し、『ジャガーノート』に覆い被さった。 「ははははははははははッ!?やったぜぇええええええええ!」 ジュラである。 身を隠していた調教師の男は、待ちわびていた機が到来した瞬間、飛び出したのだ。 恐竜の化石を彷彿させる『ジャガーノート』の細い首には、妖しく輝く紅の首輪が嵌められていた。 「期待していなかったが、本当にこの化物の膝をつかせちまうとなぁ!」 「ジュラ・・・・!」 「だがこれで、こいつは俺のもんだぁ!」 歓喜に打ち震える猫人の男は、啞然とするベルハチマン、そしてリューに笑みを見せる。 それは男がずっと待っていた『念願の時』だった。 口もとに嘲笑を滲ませるジュラは、紅の鞭を取り出し、勢いよく地面に叩きつける。 「さぁ立て、俺だけの化物!そのガキ共と、リオンを殺せぇえええええええええ!!」 鞭に共鳴する首輪が強烈な光を放つ。 暴れるかのごとく輝きをまき散らす魔道具に、半身を失った『ジャガーノート』は何度も体を揺すっていたかと思うと・・・・ゆっくりと立ち上がった。 その眼窩の奥、真紅の眼差しは少年とエルフにそそがれる。 体の損害を無視して殲滅の意志を宿す怪物の影に、ベルは焦燥を隠さず、顔を歪めた。 怪物は煩わしそうに、残っている尾を薙いだ。 飛び散る肉片。 二つに分かれる男の体。 吹き飛んだジュラの上半身は、何が起こったか最後まで理解できないまま、広間を流れる水流に落下した。 下半身が思い出したように地面に倒れ、上半身が沈んだ水流は紅の気泡を浮かばせる。 ハチマンも、ベルも、リューも、言葉を失った。 あっけなさ過ぎる、『悪』の最期だった。 男の遺志、いや怨念を一身に受け止めるように発光を重ね、『ジャガーノート』の体軀を突き動かす。 破損を重ねた足爪が一歩を踏み出し、ハチマン達に近付いた。 もう一度戦闘に臨もうと、悲鳴を上げる全身に鞭を入れる。 その時だった。 正確には、積まれていた瓦礫を払いのけるような。 後方にいるのは、まだ立ち上がれずにいるリュー。 そして更にその奥、崩れた水晶の中から這い出る、大蛇のモンスター。 首輪の輝きを纏う超大型級のモンスターは明らかに調教の影響を受けていた。 男が遺した最期の命令を一言一句違わず聞き入れ、血まみれの複眼をぎらつかせる。 調教師の最後の指示。 それは『少年達と妖精を殺せ』。 瀕死の大蛇は咆哮を上げ、水晶の破片を巻き上げながら襲いかかった。 すなわち、リューの背後から。 「リューさんっ!?」 異変に気付いて目を見開くも既に遅きに失したリュー。 その背後から巨大な口腔を覗かせ突き進む『ラムトン』。 それに向かって、走り出すベル。 「っ!?」 しかし、ガクンっと膝が崩れてしまう。 唐突に失われた【ウチデノコヅチ】の補助。 なんで、と疑問を抱くよりも早く全力で走り出すハチマンの姿を視界に捉える。 緊急回避の応用でリューとの距離を埋め、ハチマンは彼女の体を抱き締める。 次の瞬間、二人の冒険者は大蛇の口に呑み込まれた。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』 雄叫びを上げ、そのまま鋭く尖った頭部を地面に突っ込ませる『ラムトン』。 回転する大長軀は岩盤を砕き、抉って、地中へ穿孔した。 罅の入った体から『殻』の破片を飛ばして咆哮し、『ラムトン』が開けた大穴へと飛び込む。 広間で繰り広げられていた壮絶な戦闘は、それで幕を閉じた。 「ハチマン、リューさん・・・・うあああああああああああああああっ!!」 「ハチマン・・・・ハチマァァァァンッ!?」 静寂に取り残されるように、一人と一匹。 兎と人魚の悲痛な声が響いた。 [newpage] 鳴り響く、岩盤を打ち砕く音。 猛烈な空気を裂く音の後、地面から激突音が奏でられた。 その衝撃に階層が震動する。 舞い上がる煙の奥、できあがった窪地の中で蠢くのは青白い長軀。 大蛇のモンスター『ワーム・ウェール』である。 複眼を潰し、血を流しながら、この世で最も度し難い苦痛を与えられたかのようにもがき苦しむ。 大きな顎から紅の色が交ざった吐瀉物を吐き出しながら、その長大な体軀をのたうち回らせた。 それはまるで、『絶対に腹を壊す非常に厄介な異物』を食べてしまった子供にも似ていて。 次の瞬間、ドンッ!とモンスターの腹を内側から槍が貫く。 漆黒の槍は大剣へ替わり、『凶兆』の腹を切り裂いていく。 やがてモンスターは力つき、轟然と大地に横たわった。 そして、引き裂かれた腹からはどろり、と体内にしまっていた臓物が紅の水と一緒に溢れ出す。 直後、内側から現れた手がその傷口を摑み、左右へ思い切り、引き裂く。 「ぐあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・!?」 黒髪の少年が現れる。 両目をきつく瞑り、全身から湯気を上げ、ハチマンは絶叫を上げた。 脱出したモンスターの体内から前のめりに数歩進んだかと思うと、どしゃっ、と受け身も取らず、血の泉へ倒れ込む。 「うああああああああああああぁぁぁぁっ・・・・!?」 ハチマンの全身は溶けていた。 露出した肌を始め、冒険者装備も一部が溶解し、髪も煙を上げている。 無事なのは左手に巻き付けていた襟巻きと右手に握り絞めていた【魔刃・極黒】のみ。 呑み込まれたモンスターの胃袋の中で、強烈な毒の酸が少年を焼いたのだ。 ようやく体外に脱出し、冷たい外気に触れても激痛が全身を埋めつくす。 酸が交じったモンスターの血溜りにうつ伏せになって沈み、再び肌を焼かれて煙が上がる。 だがすぐに、ハチマンは手をついて体を引き剝がし、ふらつきながら立ち上がった。 「リューさっ、あぁ、リューさんっ!!」 癒着してきつく閉じられていた片方の瞼をこじ開け、視界をぼやけさせながら、再びモンスターの体内へ赴く。 宝物を無くしてしまった子供の様に、顔を歪ませながは体内をかきわけることしばらく、その腕で一人のエルフを抱きしめ、今度こそ怪物の胃袋を後にした。 「うあああああああっ・・・・!」 常人ならば仲良く溶けて、大蛇の腹の中で混ざり合っていただろう。 だが二人は常人を遥かに超越した上級冒険者。 『器』を三度昇華させた彼等は強力な胃酸にも耐え抜いた。 無様な中腰の姿勢でリューをずるずると引きずり、モンスターの血の泉を避けた後、突っ込むように地面へ倒れる。 リューはぐったりと力を失っていた。 呑み込まれた後もハチマンが胸に抱き締め守っていたとはいえ、やはりロングケープや戦闘衣は溶け出していた。 瑞々しいエルフの肌も醜い火傷にぽつぽつと犯されている。 その瞼は、永遠の眠りについたかのように閉じられたまま。 「リューさんっ、リューさん!!目を開けてくれ!!頼むからっ!!」 震える手と、溶けた指の皮でリューの肩を摑むハチマンは、祈るように繰り返し叫んだ。 彼女の命を繫ぎ止めるように、何度も。 少年の願いは届いたのか、ぴくりと、瞼が閉じられた睫毛が震える。 「リューさんっ・・・・!」 ハチマンの顔に歓喜が宿った直後。 彼の希望を打ち砕くように、怪物の遠吠えが鳴り響いた。 そこは茫洋とした大広間。 あまりにも広い。 巨大過ぎる。 薄闇に支配される周囲を震える眼差しで見回したハチマンは、付近にモンスターの影がないことに安堵しようとした。 しようとして、できなかった。 暗闇に包まれた体内で散々揺さぶられ、衝撃に翻弄されていたハチマンには、側で死体となって横たわっているこのモンスターがどこまで穿孔したのか把握できる筈もなかった。 恐らくは、27階層より下部の階層。 力を失っているリューの肩に指を食い込ませ、その体を守るように抱き締めながら、恐怖と戦いながら現状把握に努める。 地面の組成は土石系。 うっすらと視界の奥に見える壁面も同様。 頭上に広がる空間は果てしなく高く、Lv.4の視力をもってしても天井を視認できない。 茫漠とした闇に塞がれてしまっている。 唯一の光源は、壁に等間隔に灯されている燐光のみ。 首を犯す凍てついた風が。 『ようやく気付いたか?』と。 肩にのしかかる暗澹とした闇が、耳もとで嗤い声を上げ始める。 心臓の音がうるさい。 骨を突き破って飛び出してきそう。 乾いた笛のように鳴り続けている音が、乱れた自分の呼吸だと気付くのに数秒を要した。 まさか、まさか、まさか。 本能が悲鳴を上げている。 理性が事実を否定したがっている。 しかし、ヒューマンの彼女と共に閲覧した資料の記憶が残酷なまでに『とある階層』の情報と現状を合致させる。 あまりにも巨大な迷宮構造。 悲愴を覚えるほどの度合の違い。 上層域、中層域、果ては下層域とも異なるその規模。 ハチマンは絶望に染まりながら答えに辿り着く。 震える唇が、呟きを落とした。 「『深層』・・・・」.

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